昔とどう違う?テニスラケットの起源と歴史
今やテレビなどでもその動向が注目される人気スポーツの1つがテニスになります。世界中のトッププレーヤーをはじめとして、全世界で多くの選手が犇めき合う競技でもあります。日本でも長い間多くの方々がプレーしてきましたが、実はその歴史は非常に古いことをご存知でしょうか?
テニスのルーツは紀元前のエジプトまで遡り、現在の原型ができたのも1000年以上も前となる非常に長い歴史の中で愛されてきたスポーツなのです。テニスを語る上では歴史もぜひ知っていただきたいという事で、こちらではテニスラケットの起源と歴史をご紹介していきます。
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テニスの起源
テニスの始まりは今のような整ったルールの下で行われていた競技ではありませんでした。その誕生は古く、当時は複数の人がボールを打ち合うだけの単純なゲームだったと言います。
これが紀元前のエジプトまで遡ります。このエジプトに存在したこの球技が、古代ローマ帝国の遊戯の1種として引き継がれ、8世紀にはフランス貴族の遊戯として誕生した球技「ジュ・ド・ポーム」と呼ばれるこのゲームは、現在のテニスの直接的な原型と言われています。
しかしその様相は似ても似つかず、革製のボールを手で打ち合う形で行われていました。ボールも弾力が無く、今のものよりはるかに重いものだったそうです。
やがて特権階級の遊びとしてだけでなく、庶民の間でも行われる遊戯となり、17世紀には最盛期を迎えるほどになりました。当時は他に遊戯があまりなかったためか、熱中するあまり賭け事にまで発展するようになったそうです。
テニスラケットの起源
この最盛期を迎える3世紀ほど前にはテニスラケットの原型も誕生していましたが、現在の形に近いものになったのは16世紀中ごろのことになります。羊の腸を繊維状にしたものを張る形で、ラケットが誕生しています。現在この網状の部分をガットと言いますが、このガットとは「腸」を意味しており、実はこの羊の腸を使っていたことが、今もパーツの名前の由来として使われているのです。
羊以外にも牛の腸が使われているものもありますが、これらをナチュラルガットと言います。ナチュラルガットは反発力や面の安定性に優れており、現在も多くのプロテニスプレーヤーが愛用していますが、価格が高いこと、繊細で湿気などに弱いというデメリットもあるガットになります。
このラケットを使い、現在のテニスに近い形のルールでジュ・ド・ポームは行われました。サーブは一方の側からのみ行われ、レシーブ側は落ちてきたボールが2度のバウンドをする前に打ち返します。ただしサーブは現在のように頭上よりも上からではなく、下から山なりに打ち上げるものでした。
これはラケットが誕生する以前、掌で行われていたときからのルールであり、ラケットの原型ができた14世紀、そしてガットが張られたものが誕生した16世紀もこのルールで行われたとされています。
テニスの伝来
テニスはフランスから広がり、やがてヨーロッパの広域へ、そしてイギリスの植民地となっていたアメリカでも盛んに行われることとなりました。そのアメリカから日本に伝わったのは1878年のことだとされています。
この年、アメリカ人教師のリーランドは、当時体育教員の指導方法を思案していた文科省に、テニスを紹介したのが伝来の起源だとされています。また同年、外人慰留者のために横浜にある山手公園にクラブとコートが誕生し、人々に認知されるようになりました。
この後、筑波大学(当時の東京高等師範学校)にてローンテニス部が発足していますが、当時は用具の準備が困難であったため、ゴムマリを代用することで日本独自のテニスが行われていました。これがソフトテニス(軟式テニス)に発展しています。
そのため本格的に硬式テニスが導入されたのは1913年のことになります。国際交流の名目で慶応義塾大学が硬式テニスを取り入れマニラに遠征、当時こそソフトテニスから転向した選手ばかりでしたが、その技術が海外でも十分に通じることが分かり、これを機に全国の学校で硬式テニスを採用する動きが見られました。
当時のテニスラケット
そのころには現在、テニスラケットを販売する老舗として有名なウィルソンの前身が設立されていました。当時捨てられるしかなかった鳥の皮や筋を再利用して作られるようになったため、価格としても抑えられたものが販売されるようになったのです。
さらに現在と同じようにプレースタイルに合わせて重心の位置をヘッド部分やグリップ部分に移動させることが出来るモデルを作り上げていたのです。ただまだまだ強度や重量など様々な問題があるテニスラケットばかりで、品質そのものは今のものと比べるといまいちでした。
日本でのテニスブーム
1958年になると現天皇皇后両陛下が軽井沢でのテニスロマンスからご成婚されたことから、テニスが一気に有名となり、第一次テニスブームが訪れました。この時のブームを皇后陛下の名である美智子から「ミッチーブーム」とまで言われています。
また数十年経った1971年にはデビスカップで50年ぶりに強豪オーストラリアを撃破するという快挙を成し遂げ、さらに1975年には全英オープンで沢松和子・アン清村の女子ダブルスペアが優勝するなど日本人選手の活躍により、第二次テニスブームが訪れています。
どちらのブームも年齢層は大学生から社会人まで幅広かったですが、特に会社の福利厚生や自治体でのスポーツ施設などにテニスコートが設けられたことから、働いている中流層から富裕層の方々が主に行うようになりました。またテニススクールはどこもキャンセル待ちが出るほど盛況だったと言われています。
このブームの時代はラケットのガットが植物から作られたものが主流となっていました。ジャッククレイマーラケットと呼ばれる商品は、かの有名なアメリカの男子プロテニスプレーヤーであるマッケンローが愛したとされています。
このブームを背景として、やがて大人から子供へと移り変わり、近年はジュニアテニスブームが到来しました。これによりシニア層が孫とテニスを楽しむようになる姿も見られるようになっています。
この世代から生まれたのが、日本が誇るプロテニスプレーヤー・錦織圭選手でもあり、その活躍を知らない人はいないほどの人気となりました。
テニスラケットの素材の変遷
テニスラケットの素材は様々な改善を元に移り変わって今の形が出来上がっています。テニスの原型が生まれた8世紀にはまだ金属加工の技術はなく、長きにわたり木製のラケットが使われてきましたが、産業の移り変わりとともにスチール、そしてアルミとより強固で軽量な素材へと移り変わっています。
そして現在は金属よりもさらに頑丈なのに軽量、そして柔軟性もあるとされるカーボンへと移り変わってきました。これらはテニスの歴史を語る上でもおさえておきたい変化になります。それぞれのラケットの素材の特徴など少し詳しく見てみましょう。
木のラケット
最初にテニスラケットが作られた14世紀に使われていた素材です。今のものと比べると加工の問題でフェースが小さく、重いため長時間のプレーには耐えられない代物でしたが、当時手で行っていたことを考えれば革新的でした。
耐久性もあまりないため、今のものより寿命は短めと思っていただくといいでしょう。
スチールのラケット
1967年に初めて登場したと言われているのが、このスチール製ラケットです。今使われているカーボンやグラファイトよりも良くしなるため、スイングをしてもなかなかボールが離れていかず、結果としてボールが飛びにくくなってしまいます。
木製よりも耐久性も上がったことからこちらに移行されましたが、現在では使われていることはほとんどありません。
アルミのラケット
スチールから遅れること約1年、1968年に誕生したと言われるのがアルミ製です。スチールより軽いことが売りでしたが、現在の素材と比べると重く、反発力が無くて打球感が硬く、振りが大きくなってコントロール性が失われてしまうことから、実用性はあまり高くない物となっていました。
現在では価格が安いことから使い捨て用としてレクリエーションなどで使われるものとなっています。
カーボンのラケット
現在の主流となるカーボンやグラファイトの原型は1974年に生まれています。1999年には東レからハイパーカーボンが誕生するなど新しいカーボンが続々と生まれていきました。
当時としては軽いのに耐久性があると評判だったものの、現在のものよりは脆く、衝撃吸収性などは高くなかったと言われています。
様々なテニスの登場
テニスの始まりはフランスで生まれたジュ・ド・ポームであり、日本では独自の展開で軟式テニスから始まったことは歴史でも触れてきましたが、実はそれ以外にも様々なテニスがあります。
ラケットやルールを変えて様々な形態で楽しまれるこのスポーツは、どのような流れで今の形になったのか、簡単にですが見ていきましょう。
ソフトテニス
1886年に日本でゴムボールを使ったテニスとして生まれたのがこちらのソフトテニスです。ルールや試合形態は、ほぼ当時伝わっていたローンテニスの形にとなっていますが、硬球の国産が難しかったためゴムボールを代用するという部分のみを変えて始まりました。
現在はテニスラケットの種類や握りなど、多少の違いが生まれてきていますが概ねルールなどは硬式テニスと同じようなものとなっています。また中学生の部活では硬式テニスが無いところもあり、安全なソフトテニスのみというところが多いようです。
スカッシュ
こちらはフランス生まれの古代テニスの亜種と言われています。12世紀に子供たちが、まだテニスラケットも生まれていないときに、壁にボールを打ち付けて遊んでいたのが始まりのようです。それが僧院や修道院にも伝わり楽しまれるようになりました。
ボールも皮袋に土や布を詰めて縫い合わせたものを使っており、木の棒などで打っていましたが、木製のテニスラケットの誕生とともに、オランダ人によってこの遊びにもラケットが導入されたとされています。
やがてヨーロッパ諸国に広がり、国民的なスポーツとなりました。ここからファイブスとスカッシュに派生していき、ハイスクールの学生によって現在のスカッシュの形が完成したと言われています。
テニスよりも短いラケット、狭いコートで屋内という違いもあり、ル-ルも相違点が多いスポーツです。かつてと同じで若者を中心に人気のスポーツとなっています。
フリーテニス
フリーテニスは1945年に日本に駐留していたアメリカ軍人が楽しんだパドルテニスが源流とされています。競技としては1950年代に普及し始めていますが、ソフトテニスより狭いコートで、屋内で行われ、卓球のラケットよりも一回り大きい程度の木製のラケットで打ちあいます。
テニス程の体力を必要としないため、老若男女楽しめるスポーツですが、トップスピンやバックスピンなど技術に因れば戦略性もあるスポーツとして人気です。
エスキーテニス
1948年に広島で誕生したと言われるのがエスキーテニスです。日本にある連盟によれば、テニスと卓球とバトミントンを足して3で割ったようなスポーツというよく分からない触れ文句で普及しています。
バトミントンの羽根に先端にテニスのボールより小さく、卓球のボールより大きい程度のスポンジボールがついており、ラケットは卓球よりも少し大きめのものを使用してプレーされます。コートもバトミントンより小さめですが、ネットはテニスのように低めのものが使われます。
ルールとしてはテニスに似ていますが、ダブルスで展開され、ボールはノーバウンドで返さなければならず、同じ人が連続では打てないという点です。若干ですがバレーのルールも入り込んでいますが、戦略性の高い奥深いスポーツとして一部の若者を中心に人気です。
ショートテニス
1970年代にテニスの指導の一環として考案されたもので、テニスに入る前にその感覚を養うため、大きめのスポンジボールを使い軽めのラケットで、バトミントンコートを利用して行われます。
日本では1985年に振興会が発足し普及しています。現在のテニスというよりはかつてのローンテニスと同じルールで行われます。シングルスとダブルスがありますが、基本的なルールはどちらも同じです。
パワーを必要とするテニスだと怪我をしやすい子供や40代以上の大人の方がプレーする機会が多いようです。
車いすテニス
パラリンピックの正式種目であり、日本人選手で優勝した方もいらっしゃることからすでに有名かと思われますが、その誕生の歴史は1976年にまで遡ります。
アクロバットスキーで下半身不随になったブラッド・パークスがアメリカで車いすの改良を含めて競技スポーツとして成立させたのが始まりと言われています。
テニスとは違い2バウンドするうちに打ち返すなどルールの相違点はあるものの、テニスと同じく全豪オープンがあるなど世界的にプレー人口の多いスポーツです。1992年のバルセロナパラリンピックから正式競技となりました。
バウンドテニス
1980年に日本人向けに考案されたのがこちらのバウンドテニスになります。
考案したのはテニスプレーヤーではなく、レスリング金メダリストの笹原正三と言われています。老若男女に楽しめる無理のないテニスというコンセプトのもと成立しているので、テニスよりも狭いコートで、バトミントンのコートよりも横幅が短いものとなっています。
ラケットもテニスラケットより短く、フェースも少し小さめです。ボールはソフトボールと同じゴム製ですが、こちらも少し小さめのものを使います。屋内スポーツとなっており、ルールもかなり違いますが、上述通り無理のないものとなっているため気軽に始められます。ちょうどテニスと卓球を混ぜ合わせたようなルールとなっています。
ローンテニス
ローンテニスとはテニスの正式名称でもありますが、ローン(=lawn)、つまりは芝のことを指しており、芝コートでのテニスのことを特にこう呼びます。元々は英国で生まれた名前で、芝生のコートが多かったことからこの名が付けられました。
当然のことながらルールは現在のテニスとほとんど同じですが、時代が変わるにつれて誕生したころよりもルールは厳格化されているので多少の違いや追加はあります。しかし現代テニスの原型であるという事は知っておいていただくといいでしょう。
現在のテニスラケット
現代テニスはスピードテニスが主流となっているため、テニスラケットの操作性が非常に重視されています。それを損なわないように重量やスイングバランスや打球感を調整し、打ち負けずコースをつく鋭いボールを放てるように作られています。
また商品ごとにスピンの掛けやすさやボレーの打ちやすさなども違い、プレースタイルに合わせて選べるようになっています。
テニスラケットを製造するメーカーやブランドは多いですが、老舗であるウィルソンやバボラ、プロの選手も愛用するヘッドやヨネックス、プリンス、スリクソンが人気となっています。