抑えておくべき天体望遠鏡の仕組みと特徴
天体望遠鏡の種類は多く、一体どれを選ぶべきか迷う方も多くいらっしゃるでしょう。そんな方には是非、天体望遠鏡の基礎を知って頂くことをお勧めします。基礎知識があれば自ずとその選択肢も狭まります。
それでは基本的な天体望遠鏡の構造や種類、仕組み、特徴を順に見ていきましょう。
スポンサーリンク
天体望遠鏡の構造
天体望遠鏡は基本的に3つのパーツから成ります。
- 鏡筒(きょうとう);望遠鏡の筒部分
- 架台(かだい);鏡筒と脚を繋ぐ部分
- 脚:支えとなる土台
これら3つのパーツはどれも重要です。「星を見る」目的からすると鏡筒の重要性はわかりやすいですが、架台と脚の重要性は薄く見られがちです。ですが、架台と脚もとても大切です。特に架台は鏡筒の性能以上のものを使ったほうが良いと言われるほど重要なパーツです。
天体観測はとても狭い範囲を拡大して見る(倍率50倍で見る範囲は腕を伸ばした時の小指の先程度)ため、鏡筒が動かぬようしっかりと支える脚が必要であり、動く天体を追うためには細かな動きに対応できるような架台(可動部分)が必要です。
天体望遠鏡を選ぶ際はこれらの3つのバランスがとれたものを揃える必要があります。特に安価で販売されている3点セットの天体望遠鏡の中には、首から下(架台と三脚)が弱い場合もありますので注意が必要です。
鏡筒(きょうとう)の種類と特徴
鏡筒の形状には主に3種類あります。
- 屈折式:細く長い
- 反射式:太くて短め
- フレーム鏡筒:筒がない
天体望遠鏡としてイメージがつきやすいものが細長い形状の屈折式と呼ばれるタイプです。反射式は太く短く、より広範囲を見ることができ、フレーム鏡筒はその名のとおり筒がなく、骨格のみとなります。
初心者の方には管理の手間がない屈折式が使いやすいとされています。
フレーム鏡筒の例:ケンコー / NEWスカイエクスプローラーSE300D
現在の価格はコチラ |
架台(かだい)の種類と特徴
架台の仕組みには主に2種類あります。
- 経緯台式:縦(上下)、横(左右)の動き
- 赤道儀式:弧を描く動き
経緯台式のメリットは設置が容易、縦横の動きなので操作がわかりやすい点です。デメリットとしては動く星を追うためには、毎回縦、横2方向に動かす必要がある点です。
対して、赤道儀式のメリットは見たい星にセットすればレバー1つで追うことができる点です。デメリットとしては、設置の段階で北極星に軸を合わせる設定が必要です。そのため、見たいタイミングですぐに観測開始できないということもあります。設定する必要はありますが、慣れると赤道儀式のものは大変使い勝手が良いとされています。
拡大して見る星の動きは想像以上に早く、50倍であれば視界の端から端まで4分程度、100倍であれば2分程度で星は動いてしまうとされています。そのため、少しモタモタしていると視野から星がいなくなってしまうこともあり、速やかに鏡筒を動かす必要があります。この鏡筒の動きを左右するものが架台となります。
動きに精度が求められる架台はできる限り高性能のものが望ましいです。しかしながら、架台の価格幅はかなりあり、良いものを、と思うと上限がありません。選ぶ際は実績のあるメーカー及びシリーズから予算内でできる限り良いものを手に入れることがスムーズな天体観測につながります。
初心者の方には経緯台式の方が使いやすいとされています。
脚・三脚(さんきゃく)の種類と特徴
脚部分は三脚のものがほとんどですが、ピラー脚と呼ばれる1本脚のものや、卓上タイプ(架台と土台が一体)のものもあります。
鏡筒は大きく、重いものも多く、脚はしっかりとした作りである必要があります。架台ほどの繊細さは必要ありませんが、鏡筒に合わせた強度をもつ脚を選びましょう。
天体望遠鏡の種類と仕組み
天体望遠鏡の種類は、屈折式と反射式の2つに大分されます。それぞれの仕組みと特徴は以下の通りです。
種類 | 特徴 | 詳細 |
屈折式 | 形状 | 長く細い。鏡筒の前方で星をとらえ鏡筒の後方(手前)から見る。 |
仕組み | 星からの光を鏡筒前方の凸レンズ(対物レンズ)によって内側に屈折させて集め像を作る。それを手前のレンズ(接眼レンズ)で拡大して観察する。対物レンズの枚数や仕様によって複数の種類がある。 | |
メリット | 手入れ(光軸調整、メンテナンス)がほぼいらない | |
自身が見る方向と望遠鏡の先が同じ方向なので操作がしやすい | ||
すぐに使うことができる | ||
シンプルな作りのため、コントラストの高い像が得られる | ||
デメリット | ボケや歪み(色収差)が発生する | |
口径が大きくなると長く、重く、高価になる | ||
反射式 | 形状 | (屈折式に比べる)太く短い。 |
仕組み | 鏡筒の前方から入った星からの光を鏡筒後方の主鏡(凹レンズ)で集め、前方近くにある斜鏡もしくは副鏡で反射させて像をつくり、それを接眼レンズで拡大して観察する。 | |
メリット | 像のにじみや歪み(色収差)が発生しない | |
口径を大きくできるため、広い範囲(星雲)を観測できる | ||
像の中心はとくに鮮明に見ることができる | ||
口径が大きくなっても比較的安価(屈折式に比べて) | ||
デメリット | すぐに使えない (筒内気流が発生するため、使用前に外に出してなじませる必要がある) |
|
調整やメンテナンスが必要。光軸がズレやすい | ||
像の外側に行くほど扇状の歪み(コマ収差)が生じる | ||
鏡筒の強度が弱くなりやすい |
光学系天体望遠鏡の種類と特徴
屈折式と反射式、この2つの仕組み(光学系)を元にさらに進化した光学系が数多く開発されており、光学系によって種類が分かれます。その中で代表的なものを下記に紹介させて頂きます。
構造の種類 | 特徴 | ||
屈折式 | ガレリオ式 | 対物レンズは凸レンズ1枚と接眼レンズは凹レンズ。像は正立像、視野は狭い。 | |
ケプラー式 | ケプラー式 | 対物レンズは凸レンズ1枚と接眼レンズは凸レンズ。天体望遠鏡の屈折式のほとんどがケプラー式、像は倒立像、視野が広い。 | |
アクロマート | 対物レンズは屈折率の異なる2枚のレンズを使用。色収差は対物レンズ1枚の時より補正されるが、写真には不向きで観望向き、比較的安価。 | ||
アポクロマート | 対物レンズに2枚のレンズを使用(凸レンズに超低分散ガラスなど特殊素材を使用)。色収差はアクロマートに比べ大幅に改善されたが価格はアクロマートの2~3倍。 | ||
フローライト式 | 対物レンズに2枚のレンズを使用(凸レンズにフローライトを使用)。色収差はアポクロマートよりも改善、しかし強度が弱く、経年劣化や温度変化に弱く、高価。 | ||
3枚玉アポクロマート | 対物レンズに3枚のレンズを使用。色収差は2枚のアポクロマートより改善されているが高価(アポクロマート以上)。 | ||
ペッツバール式 | レンズを前と後の2か所に分けて設置することで色収差、球面収差、コマ収差も補正することができるが高価(3枚玉アポクロマート以上)。 | ||
反射式 | ニュートン式 | 主鏡(凹レンズ)1枚、斜鏡1枚、接眼レンズは凸レンズ。接眼レンズは鏡筒の側面。 | |
カセグレン式 | 主鏡(凹レンズ)、副鏡(双曲面凸鏡)。接眼レンズは鏡筒の後方(屈折式と同じ位置)。反射式と屈折式を組み合わせた作りになっており、鏡筒の長さが約1/3となるためコンパクト、ただし副鏡の製造が難しく、高価。公共の天文台で使用されることが多い。 | ||
ドール・カーカム式 | 主鏡(楕円面鏡)、副鏡(球面鏡)。中心像がシャープ、コマ収差(視野の端に行くほど歪む)が非常に大きいため、狭い範囲での使用に向く。 | ||
シュミットカセグレン式 | 主鏡(球面鏡)、副鏡(球面鏡)、シュミレット補正版。鏡筒が短く、軽いうえ比較的安価、しかし筒内気流が発生しやすく光軸がズレやすい。 | ||
マクストフカセグレン式 | 主鏡(球面鏡)、メニスカスレンズ(凹レンズ様)。小型の天体望遠鏡に使われる光学系。 | ||
リッチークレチアン式 | 主鏡(凹面)、副鏡(凸面)。カセグレン式に似ているが、収差が異なる。球面収差、コマ収差はなく、像面湾曲(像が平面にならず湾曲する)、非点収差(1点を光源とする光の作る像が同心円方向と直径方向で焦点距離がずれる)が強い。 | ||
イプシロン式 | 主鏡(凹双曲面鏡)、副鏡、接眼レンズ(補正レンズつき)。タカハシ(高橋製作所)により開発された光学系、主に写真用の鏡筒に使用。 | ||
シーフシュピグラー式 | 主鏡(凹レンズ)、副鏡。主鏡を斜めに設置することで入ってくる光が副鏡にぶつからない仕様になっている。反射系だが収差が出やすい。 |
天体望遠鏡の性能の見方
天体望遠鏡の性能語る上で必要なキーワード、口径・倍率・限界倍率・限界等級・集光力・分解能について見ていきましょう。この中でも口径は最も重要で性能を左右する要といっても過言ではありません。
天体望遠鏡の口径と倍率
口径は天体望遠鏡の対物レンズの大きさを示し、大きければ大きいほど多くの光を取り込むことができ、視野も広くなります。視野が広くなれば観察できる範囲も広がり、多くの光を取り込むことができれば暗い星も見ることができます。
倍率は接眼レンズの焦点距離※を対物レンズの焦点距離で割ることで計算することができます。レンズの組み合わせによっては高倍率にすることが可能ですが天体望遠鏡で見ることのできる最大の倍率は口径で決まります。
※焦点距離とはレンズまたは球面鏡の光学的中心点(主点)から像を結ぶ焦点までの距離を示します。
天体望遠鏡の限界倍率とは?
天体望遠鏡で見ることができる最大の倍率を限界倍率といい、口径(mm)の2倍で求めることができるとされています。ただしこの数字は観察条件により異なりますので目安と考えましょう。、例えば口径8センチの望遠鏡の場合、80(mm)×2=160となり、160倍がその望遠鏡の限界倍率になります。これを超えた倍率で見ようと思っても像が暗くなってしまい見えなくなります。
倍率は対物レンズと接眼レンズの組み合わせ次第で大きな数字を作ることはできますが、口径が小さければその数字も意味がありません。天体望遠鏡を選ぶ際は倍率だけで判断しないよう注意しましょう。
天体望遠鏡の集光力と限界等級
天体望遠鏡は集光力によってそれぞれ見ることができる星の等級、限界等級があります。星の等級とは星の明るさによって決まります。
集光力とは言葉のとおり望遠鏡の光を集める力を示し、限界等級とはその天体望遠鏡で見ることができる最も暗い星の等級を示します。集光力及び限界等級は口径によって決まります。それぞれの関係は以下の通りとなり、口径が大きくなるほど集光力は大きくなり、より暗い星も見ることができるようになります。
口径(㎜) | 50 | 80 | 100 | 150 | 200 |
集光力(倍) | 51 | 131 | 204 | 459 | 816 |
限界等級(等級)※ | 10 | 11 | 11 | 12 | 13 |
※肉眼の瞳孔直径を5mm、肉眼での限界等級を5等星とした場合
天体望遠鏡の分解能
分解能とは近接する2つのもの(星)を分離して見分ける能力のことを示し、これも口径によってその良し悪しが決まります。
分解能の単位は秒であり、数字が小さいほど分解能が良いことになります。分解能を求める式は116÷口径(㎜)となっており、116は固定なので口径が大きいほどその値は小さくなる、つまり、分解能が高くなることがわかります。