何が観たい?天体望遠鏡の倍率と選び方
天体望遠鏡の購入を検討している方にとって一番気になるのが「倍率」なのではないでしょうか?月や惑星、星雲や星団など地球から遠い位置にある天体を観るためには精度の良い天体望遠鏡が必要となるのはわかっているけれど、どれくらいの倍率が必要なのか全く見当がつかない、という方が多いと思います。
今回は、天体望遠鏡の倍率がどれくらいあればどのような天体を観測することができるのか、ご紹介したいと思います。
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天体望遠鏡における倍率とは?
天体望遠鏡の購入を検討した方が一度は耳にしたことがある「倍率」ですが、天体望遠鏡は接眼レンズを交換することによって倍率を変えることができ、天体望遠鏡の倍率は、対物レンズ(主鏡)の焦点距離÷接眼レンズの焦点距離で求められます。
例えば、対物レンズの焦点距離が1000㎜で、接眼レンズの焦点距離が5㎜の天体望遠鏡であれば、倍率は200倍となります。
「倍率が高くなれば良く見えるのではないか?」と思う方が多いと思いますが、天体望遠鏡には「口径×2」で求められる「適正倍率」というものがあり、それ以上に倍率を高くしても、暗くなって細部もキレイに見ることができません。ですので、高倍率であればどこまでも見れるというものではないんです。
一般的な望遠鏡の倍率はどのくらい?
では、一般的な望遠鏡の倍率はどれくらいなのでしょうか?
天体望遠鏡には有効最高倍率と有効最低倍率とがあります。どちらも天体望遠鏡の口径によって決まり、有効最高倍率は「口径×2.5」で、有効最低倍率は「口径㎜÷7㎜」で求められます。なぜ7㎜で割るのかというと、人間の瞳は真っ暗闇の中で最大7㎜まで開くといわれているからです。
また、天体望遠鏡の倍率は以下のようになっています。
- 低倍率はおよそ30~70倍
- 中倍率は70〜140倍
- 高倍率は140倍以上
低倍率の場合は星団や星雲、月の全体像などを観ることができ、月面の拡大や惑星を観たいときには高倍率での観測がオススメです。
天体望遠鏡の倍率の選び方
天体望遠鏡の最低倍率・最高倍率については理解していただけたと思います。
では、実際「どれくらいの倍率があれば、どのような天体が観れるのか」についてご紹介したいと思います。
天体 | 口径 | 低倍率 (30〜70倍) |
中倍率 (70〜140倍) |
高倍率 (140倍以上) |
月 | ~60mm | 月面全体が見られる | 無数のクレーターや海の表面の形状が見える | シーイングの良いときにのみ使用する |
80mm | 月面全体がはっきり見られる | クレーターの状態や山ひだがはっきり見える | 月面の1/2が視野いっぱいになる | |
100mm | 月面全体がはっきり見られる | 小クレーターの観察が可能 | 多くの裂け目や山々の詳細がわかる | |
150mm~ | 月面全体がはっきり見られる | 小クレーターの詳細が観察可能 | 小さな起伏および裂け目の詳細がわかる | |
水星 | ~60mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 最大離角のころ半月のように見える | 過剰倍率のため不適 |
80mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 最大離角のころ半月のように見える | 高度が高いときには見やすくなる | |
100mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | シーイングの悪いときに使用 | 形の変化を追いやすくなる | |
150mm~ | おもに望遠鏡に導入するときに使う | シーイングの悪いときに使用 | 表面の淡い模様が見えるときがある | |
金星 | ~60mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 満ち欠けや大きさの変化がわかる | シーイングの良いとき見やすくなる |
80mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 満ち欠けや大きさの変化がわかる | 高度が高いときには見やすくなる | |
100mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | シーイングの悪いときに使用 | 先端の光輝や白斑・濃淡が見える | |
150mm~ | おもに望遠鏡に導入するときに使う | シーイングの悪いときに使用 | 先端の光輝や白斑・濃淡が見える | |
火星 | ~60mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 大接近のとき大シチルス・極冠が見える | 空の条件が良いときは見やすくなる |
80mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 極冠やうす暗い模様がいくつか見える | スケッチをするときは150倍以上が見やすい | |
100mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | シーイングの悪いときのみ使用する | 接近のときは種々の模様が見える | |
150mm~ | おもに望遠鏡に導入するときに使う | シーイングの悪いときのみ使用する | 200倍以上で種々の模様が確認できる | |
木星 | ~60mm | 4つの衛星の位置観測に適す | 衛星の食・縞模様(2、3本)が見えやすくなる | シーイングの良いときにのみ使用する |
80mm | 4つの衛星の位置観測に適す | 縞のおおよその構造がわかる | スケッチをするときは150倍以上が見やすい | |
100mm | 4つの衛星の位置観測に適す | 縞の構造の細部がわかる | スケッチをするときは200倍以上が見やすい | |
150mm~ | 明るすぎるため不適 | 4つの衛星の位置観測に適す | 縞の微細構造や変化が観測できる | |
土星 | ~60mm | 全体の姿がこじんまりと見える | 環および衛星タイタンが見やすくなる | 本体の縞模様が見えることがある |
80mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 本体の縞模様・環の濃淡・カッシーニ溝がわかる | スケッチのときは150倍以上が見やすくなる | |
100mm | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 本体の縞模様・環の濃淡・カッシーニ溝がわかる
(衛星が2個見える) |
本体の縞模様が見え環が3つに分かれて見える | |
150mm~ | おもに望遠鏡に導入するときに使う | 本体の縞模様・環の濃淡・カッシーニ溝がわかる
(衛星が5個見える) |
本体の縞模様が見え最外環がはっきりする | |
星団 星雲 |
~60mm | 主な星雲・星団の観望 | 過剰倍率のため不適 | 過剰倍率のため不適 |
80mm | メシエ番号のついたほとんどの星雲・星団の観望 | 過剰倍率のため不適 | 過剰倍率のため不適 | |
100mm | 主な球状星団が高倍率で星に分解して見える | 過剰倍率のため不適 | 過剰倍率のため不適 | |
150mm~ | 星雲・星団がはっきりと雄大に美しく見える | 過剰倍率のため不適 | 過剰倍率のため不適 |
天体望遠鏡の口径に対する倍率の考え方
天体望遠鏡は、接眼レンズを交換することで倍率が変わりますが、「倍率が高ければ高いほど遠くの天体が良く見える」というものではなく、それぞれの口径によって「適正倍率」や「最高倍率」・「過剰倍率」が決まっています。
適正倍率
適正倍率とは、「口径×2」で求められる倍率です。口径の2倍の倍率であれば、天体をぼやけることなくキレイに観ることができるという事を表しています。
最高倍率
倍率をあげていくと、次第に像が暗くなってぼやけていきます。天体がぼやけることなくはっきりと観測することができるぎりぎりの倍率のことを有効最高倍率というのですが、有効倍率は一般的には口径の2.5倍くらいといわれています。しかし、惑星の光量や観測する日の環境によって変わるため、はっきりと規定することは難しいともいわれています。
過剰倍率
過剰倍率とは、「最高倍率以上の倍率」という意味になります。販売する側が多くの人に購入してもらうために高倍率を謳った商品を販売していますが、過剰倍率の天体望遠鏡では天体をはっきりと観測することはできず、観えるのは暗くぼやけた像になってしまいます。
天体望遠鏡の性能を決めるのは「口径」なので、遠い星団・星雲を観たいという時には、口径が大きいものを選ぶことが大切です。また、口径の2倍程度が適正倍率なので、どの天体を観たいのか、という目的から口径を選ぶことがオススメです。