天体望遠鏡のレンズの種類と選び方
天体望遠鏡は対物レンズと接眼レンズで像を結ぶことによって、天体を観測することができる仕組みになっています。観測したい天体によって接眼レンズを交換して倍率を調整することができますが、「対物レンズ」「接眼レンズ」といわれても、耳なじみのない言葉なので良くわからない、という方もいらっしゃると思います。
今回は、「対物レンズ」「接眼レンズ」といったレンズの種類と選び方について詳しくご紹介したいと思います。
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天体望遠鏡におけるレンズの種類と役割
天体望遠鏡は、屈折式望遠鏡と反射式望遠鏡・カタディオプトリック式望遠鏡という種類があります。まずはそれぞれの方式について簡単に紹介させていただきます。
屈折望遠鏡の特徴
屈折式望遠鏡は対物レンズで光を集める仕組みで、たくさんある天体望遠鏡の種類の中で最もポピュラーな望遠鏡です。
気軽な天体観測をしたい方は普通のレンズ(アクロマートレンズ)を使用した天体望遠鏡で十分楽しむことができますが、少しこだわりたいという方は色収差が少ない高性能レンズ(EDレンズなど)を使用したアポクロマートなどの機種がオススメです。
反射式望遠鏡の特徴
反射式望遠鏡は凹レンズを使用したタイプです。放物面鏡と平面鏡を組み合わせたニュートン式が反射式望遠鏡の一般的な機種です。
反射式望遠鏡の特徴は、像に色収差が発生しないのですっきりした像を観測することができます。ただ、振動などで光軸がずれやすいためメンテナンスが好きな方にオススメです。
カタディオプトニック式望遠鏡の特徴
カタディオプトニック式望遠鏡は屈折式望遠鏡と反射式望遠鏡の利点を併せ持ったタイプになります。
様々な種類がある天体望遠鏡ですが、どの種類も「対物レンズ」と「接眼レンズ」を使用しています。
また、これまでの説明の中で出てきた「色収差」「アクロマート」「アポクロマート」「EDレンズ」って何?という方も多いと思いますので、これらの言葉について簡単にご紹介します。
接眼レンズとは?
接眼レンズとは、字の通り「眼が接するレンズ」なので、天体観測をするときに覗く部分にあるレンズのことを言います。対物レンズ(主鏡)で集めた光によって焦点に作られた実像を拡大するためのレンズです。
接眼レンズにはそれぞれアルファベット記号と長さが記載されています。この長さは、接眼レンズの焦点距離を示しています。天体望遠鏡の倍率は接眼レンズで決まります。「倍率=対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離」で求めることができ、接眼レンズの焦点距離が長ければ倍率は低くなり、焦点距離が短ければ倍率が高くなります。倍率が低くなれば見える範囲が広く明るくなり、倍率が高くなれば見える範囲が狭く暗くなります。
接眼レンズの種類
略記号 | 名称 | 特徴 |
H | ハイゲンス | 2枚のレンズを用いています。入門機種で使用されることがあります。 |
MH | ミッテンツェー・ハイゲンス | Hの改良型です。構造が単純でレンズの接合が無いので、太陽観測にも使用できます。 |
SR | スペシャル・ラムスデン | 2枚のレンズを用いています。一部の格安天体望遠鏡に付属品としてついています。色収差が残り視野が狭いのが特徴です。 |
F | エフ | 2枚のレンズを用いていて、格安望遠鏡用に製造されています。視野が狭いのが特徴です。 |
K | ケルナー | 3枚のレンズを用いています。星団・星雲の観測用に良く使用されます。低倍率に向いています。 |
Or | オルソスコピック | 4枚のレンズを用いています。中倍率から高倍率まで対応します。 |
Er | エルフレ | 5枚のレンズを用いているのが一般的です。視界周辺部に収差があるので、あまり用いられません。 |
PL | プローゼル | 4枚のレンズを用いていますOrの変化形です。 |
LV,LVW | エルブイ、エルブイダブリュ | LVはビクセン社が開発した種類です。比較的広視界で低倍率から高倍率まで対応します。 |
Nagler | ナグラー | 超広視界接眼レンズです。視界周辺部まで像がクリアに見えます。 |
対物レンズとは?
対物レンズとは、鏡筒の前面についているレンズで、対物レンズの直径を「口径」といいます。口径は天体望遠鏡の性能を決める要素で、口径が大きいことで集光力や極限等級・分解能が良いというメリットがあります。
集光力とは、多くの光を集める能力のことで、集光力が大きいことで視野が明るくなります。また、極限等級が大きいとかすかな星の光をとらえることができるので、より暗い星まで観測することができます。そして、分解能とはより細かいところまで見分けることができることを表していて、分解能が高いことでより細かな月面の地形や土星のリングを観測することができます。
光は波長(または色)によって屈折率が違うため、レンズを通過する光は波長・色によってスペクトルのように分散されて色のにじみになります。この色のにじみを「色収差」といいます。これを補正するために2枚以上のレンズを組み合わせるのですが、色収差を100%取り除くことは難しいとされています。
2枚以上の素材・形状が違うレンズを組み合わせて色消しの工夫をしているレンズの種類に「アクロマートレンズ」「アポクロマートレンズ」があります。また、特殊なレンズとして「EDレンズ」「SDレンズ」「フローライト」などのレンズもあります。
レンズの性能と価格の相関
天体望遠鏡には接眼レンズと対物レンズがあります。接眼レンズ・対物レンズとも、高性能のレンズになればなるほど価格が高いという相関関係があります。
レンズに関する用語解説
天体望遠鏡の「核」と言っても過言ではないレンズには、普段聞きなれないような専門用語がたくさん出てきます。初めて天体望遠鏡を購入するという方が覚えておくと、天体望遠鏡選びに役立つであろう用語の解説をご紹介しておきます。
色収差
プリズムを通過した光の分散を見たことがある方は多いと思いますが、天体望遠鏡のレンズを光が通過した時に、波長・色ごとに屈折率が違う光が色ごとに分解されるため、星がにじんだように見えることを言います。
口径比(F値)が小さな屈折式天体望遠鏡では、色収差が顕著に発生することがあります。
アクロマート
色収差によって光が分散されるため、対物レンズに屈折率や形状が異なる2枚以上のレンズを組み合わせて色消しをします。赤色と青色の2色の光について色消しがされたレンズのことをアクロマートレンズといいます。
アクロマートレンズでは、色収差は完全に抑えられているわけではなく、紫色の光に関しては焦点距離が異なっています。しかし、紫色の光に関しては観測時に不都合を感じることはありません。
アポクロマート
赤色と青色の2色について色消しがされているレンズをアクロマートレンズといいますが、この2色に紫色を加えた3色の光に対して色消しがされたレンズのことをアポクロマートレンズといいます。
完全に近い色消しがされているので、にじみが無い美しい像を観測することができます。
EDレンズ
EDレンズも色収差を解消するために作られた特殊なレンズです。EDレンズは光を分散しにくい性質をもった特殊なレンズのため、色収差が発生しにくくなっています。
また、傷がつきにくくて耐久性が高いレンズです。さらに低分散なレンズとしてSDレンズがありますが、明確な区別はなくEDレンズ・SDレンズともアポクロマートレンズに採用されることがあります。
天体望遠鏡を購入する際のレンズの選び方
天体望遠鏡の性能は対物レンズ50%、接眼レンズ50%といわれ、レンズによって決まります。
また、接眼レンズを交換することで倍率を変えることができますが、口径、つまり対物レンズの直径によって有効倍率は決まっていて、それ以上倍率をあげてもかえって観測できないという事になります。
したがって、天体望遠鏡を購入する際には、対物レンズの性能を重視することがオススメです。
また、天体望遠鏡ごとに口径・F値が異なっているので、望遠鏡に合った接眼レンズを選ぶ必要があります。高性能の接眼レンズは望遠鏡の能力を生かすことができるので、予算を多く取れる方にはオススメですよ。